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東京高等裁判所 平成3年(ネ)1192号 判決 1993年2月24日

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは、各自、

控訴人オリエンタル・ファイアー・アンド・マリーン・インシュアランス・カンパニー・リミテッドに対し、金一億四二九一万〇七七八韓国ウオン

控訴人ダエハン・ファイアー・アンド・マリーン・インシュアランス・カンパニー・リミテッドに対し、金九九六万一二四七韓国ウオン

控訴人ラッキー・インシュアランス・カンパニー・リミテッドに対し、金二六六三万三九五四韓国ウオン

控訴人アンクック・ファイアー・アンド・マリーン・インシュアランス・カンパニー・リミテッドに対し、金一九九三万四四八四韓国ウオン及びこれらに対する被控訴人関汽外航株式会社は昭和六三年六月一〇日から支払済みまで年六分の、被控訴人エビス・マリナ・エス・エイは同年一一月二二日から支払済みまで年五分の各割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被控訴人ら

主文と同旨

第二  当事者の主張及び証拠関係

一  当事者の主張

次に付加するほかは原判決の事実摘示(事実及び理由第二 事案の概要)のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決七頁四行目及び五行目の各「表章される」の次にそれぞれ「運送人の」を加える。

2  同末行の次に、改行の上、

「2 (定期傭船契約)

被控訴人エビス・マリナと被控訴人関汽外航との定期傭船契約(本件定期傭船契約)は、ニューヨーク・プロデュース・ホームに基づくものである。」を加え、以下これに伴い、同八頁初行冒頭の「2」を「3」に、八行目冒頭の「3」を「4」に、一〇行目冒頭の「4」を「5」に、同九頁三行目冒頭の「5」を「6」にそれぞれ改める。

3  同八頁五行目の次に改行の上次のとおり加える。

「控訴人らは、当審において、右事実についての自白を撤回し、被控訴人らはこれに異議を述べた。」

4  同九頁四行目の次に改行の上、

「7 (通風換気装置)

本船の通風換気装置は、排気専用のマッシュルーム型の自然通風装置である。言い換えれば、本船は、機械通風装置を装備していなかった。

8 (荷敷(ダンネージ)の設置)

本船は、船側外板沿いに荷敷(ダンネージ)を設置していなかった。」

を加える。

5  同五行目冒頭の「6」を「9」に、同九行目冒頭の「7」を「10」に、同一〇頁初行冒頭の「8」を「11」にそれぞれ改める。

6  同一〇頁七行目の次に改行の上次のとおり加え、以下これに伴い、八行目冒頭の「2」を「3」に、同一五頁二行目冒頭の「3」を「4」に、九行目冒頭の「4」を「5」にそれぞれ改める。

「(一) 船荷証券上の海上運送人(以下、単に「運送人」という。)は、定期傭船契約の法的性質によって定まるのか、船荷証券上の記載及びその解釈によって定まるのか。

(二) デマイズ・クローズは、国際海上物品運送法一五条一項に該当して無効か。

2 (運送人の堪航(堪貨)能力担保義務(国際海上物品運送法五条一項二号、三号による控訴人らの主張))

(一) 本件航海においては船体発汗が不可避であり、かつ、これを予測することができたか。

(二) 本件貨物は、水分との接触によって単に発酵腐敗するにとどまらず、高度の熱化あるいは自然発火などの現象を来す危険物としての性質を有していたか。

(三) よって、運送人は、船体発汗による貨物の濡損事故を防止するため、本件航海においては、船倉内に通風良好な機械通風装置を装備した船舶を提供すべきであったか(ちなみに、本船の通風換気装置は、排気専用のマッシュルーム型の自然通風装置であった。)。

(四) また、貨物の積み付けにおいては、本件貨物と水分との接触を回避するため、船側外板沿いに内張りを施すべきであったか。

(五) そうでないとしても、貨物の積み付けに当たっては、少くとも船側外板に沿って袋詰めの貨物を積み付け、船側外板に貨物が接触しないようにすべきであったか。

(六) 本船の一等航海士は、本件貨物の前記特質に鑑み、本件貨物が十分に経年していること、すなわち、貨物の温度が十分に下がっていることを確認するため(IMOコード)、昭和六一年四月二四日から二七日までの四日間にわたる船積期間中貨物の検温をすべきであったか。」

二  証拠関係(省略)

理由

一  当裁判所も、控訴人らの各請求はいずれも理由がないと判断するものであるが、その理由は、次に付加、訂正するほかは、原判決の理由説示(事実及び理由第二 事案の概要二 争いのない事実及び第三 争点に関する判断)のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決一六頁五行目を次のとおり改める。

「1 船荷証券上の運送人の確定について

控訴人らは、船荷証券で表章される運送人に対して運送契約上の債務不履行責任を追及するものであるところ、定期傭船契約の法的性質を船舶賃貸借契約と労務供給契約の混合契約であるから、商法七〇四条一項の規定の(類推)適用又は準用があるとして、右の運送人を定期傭船者である被控訴人関汽外航である旨主張し、被控訴人エビス・マリナと被控訴人関汽外航が本件定期傭船契約を締結したことは、前記のとおりである。しかしながら、船荷証券は要因証券であるから、一定の原因に基づくことを要し、右の基本的な原因となるものは、荷主(荷送人)と運送人との間に傭船契約が存在することであるが、この荷主と運送人間の傭船契約は、船主(船舶所有者)と運送人間の定期傭船契約とは別個の契約である。そして、船主と運送人間の定期傭船契約において運送人に傭船中の船舶を再傭船することができる権利が与えられているときは、運送人は自ら荷主と再傭船契約を締結することもできるが、船主・運送人間の定期傭船契約と荷主・運送人間の傭船契約はともに債権契約であるから、船主甲が乙と定期傭船契約を締結しながら、荷主丙と傭船契約(通常は航海傭船契約であろう。)を締結することも適法に行うことができるばかりでなく、甲と乙は、甲が乙の傭船中の船舶について更に第三者と傭船契約を締結することを予定し、右定期傭船契約において乙に対して甲を代理して第三者と傭船契約を締結する権限を授与することもできるのであって、そうだとすると、定期傭船契約の法的性質を船舶賃貸借契約と労務供給契約の混合契約であると解したとしても、そのことから当然に丙と傭船契約を締結できるものが乙に限定されることにはならないことになる。したがって、商法七〇四条一項の規定が報償責任等の観点から定期傭船者の船舶衝突事故等における第三者に対する責任について適用されることがあることは格別、船荷証券で表章される運送人の運送契約上の債務不履行責任についてはこれを適用又は準用すべき基盤そのものがないといわなければならない。こうして、本件定期傭船契約が存在するということだけでは本件船荷証券で表章される運送人が被控訴人関汽外航であるとすることはできないから、控訴人らの右主張は理由がない。

荷主と運送人の本船による本件貨物の運送が船積港をインドネシアのシボレン港とし陸揚港を韓国のインチョン港とするものであったことは前記のとおりであるから、右運送は、国際海上物品運送であり、したがって、本件船荷証券は、外航船舶の船荷証券であって、文言証券ではないが、外航船舶の船荷証券の記載には一応の証拠としての効力があるから(国際海上物品運送法九条)、船荷証券で表章される運送人は、原則として船荷証券上の記載及びその解釈によって確定されなければならない。

2  本件船荷証券上の運送人について

(一)  控訴人らは、本件船荷証券の上部にKANSAI STEAMSHIP COMPANY LTD BILL OF LADINGの表示があることをもって本件船荷証券上の運送人は被控訴人関汽外航である旨主張する。そして、本件船荷証券の上部に右の表示があることは前記のとおりである。しかしながら、後記のとおり本件船荷証券の署名欄には「For the Master」の記載があってそれに署名があることや約款にデマイズ・クローズが記載されていること等本件船荷証券上にはそれで表章される運送人を固有にかつ明確に特定することができる事項があることからすれば、本件船荷証券上部の右表示は、本件船荷証券の用紙が同被控訴人の専用用紙であることを示すか、荷主等に対して連絡先を示すか、せいぜい同被控訴人が定期傭船者等としして本件船荷証券で表章される運送人との傭船契約に何らかの形で関与していることを示す以上の意味を持つものではないと見るべきである。したがって、控訴人らの右主張は理由がないといわなければならない。

(二)(1)  インドネシアのシレボン港の船舶代理店カリマタが昭和六一年四月二六、二七日に本件船荷証券に署名したことは前記のとおりであるところ、控訴人らは、当審において、右の署名が船長のために(FOR THE MASTER)という表示のもとにされた事実について自白を撤回すると述べ、被控訴人らはこれに異議を述べたが、右事実は、本件船荷証券上の運送人が誰であるかという事実の間接事実にすぎないから、右事実については、いわゆる自白は成立せず、控訴人らは右事実についての認否を変更することができる。そして、本件船荷証券の署名欄には、「For the Master」の記載があってそれに署名がある。もっとも、右の「e Master」の上には印紙がちょうふされており、右印紙はカリマタの印章によって割印されている。しかし、本件船荷証券において記載を抹消する場合には、記載の上に線を引いてその傍らに押印し署名をする手法が採られている。右の事実によれば、右の『e Master』の記載は右の印紙のちょうふによって抹消されたわけではなく、右記載の上にたまたまちょうふした印紙が掛かっただけに過ぎない。

証拠

甲一1~6。」

2  同六行目の「1」を「(2)」に改め、同一〇行目の「乙一三」の次に「、二二」を加える。

3  同末行から同一七頁二行目までを次のとおり改める。

「(3) 被控訴人エビス・マリナの所有する本船が本件貨物を積載して昭和六一年四月二七日にシレボン港を出港し同年五月八日に韓国のインチョン港に入港したことは、前記のとおりである。右航行における本船の船長は岡本吉生(以下「岡本」ともいう。)であるが、同人及びその他の乗組員を雇い入れていたのは、同被控訴人であった。岡本は、昭和四三年、乙種船長の海技免許を取得し、同被控訴人が建造を発注し昭和五五年一〇月一七日に完成竣工した本船に、新造船の時から船長として乗り込んでいた。そして、岡本が業務上の指示を受けたり連絡をしたりする先は、愛媛県にある同被控訴人の日本における事実上の営業所であった。右の事実によれば、岡本は、昭和五五年一〇月ごろ、同被控訴人に本船の船長として雇い入れられたものであり、同被控訴人と岡本との間でその際に締結された雇入れ契約は、本船の船長としての雇用と代理権の授与を含む委任ないし準委任の混合契約であったことを推認することができる。

証拠

乙六

乙一八

原審における岡本証人(6~7、9、222~223、230~236項)

弁論の全趣旨

そして、船長の代理権の範囲は法定されている(商法七一三条。」

4  同一七頁三行目の「3」を「(4)前記のとおりニューヨーク・プロデュース・ホームに基づく」に改める。

5  同八行目の次に、改行の上、

「(5) 船主が自己の船舶を定期傭船に出し、傭船者の運航にゆだねている場合には、現在の海運実務では明示の規定がなくても、船主は、傭船者やその代理人に対して自らに代わって船荷証券に表章される契約を締結する権限を与えたものと解されている。

証拠

乙二九」

を加える。

6  同九行目の「4」を「(6)本件定期傭船者」に改める。

7  同末行の「本件定期傭船者」を「右」に改める。

8  同一八頁六行目の「5」を「(7)」に、同一〇行目の「6」を「(8)」に、同一九頁八行目の「7」を「(9)」にそれぞれ改め、同一八頁九行目、及び一九頁六行目の各「甲一1~7」をそれぞれ「甲一1~6」に改める。

9  同二〇頁初行冒頭の「8」を「(10)」に、二行目にかけての「の名が記載され、」を「シレボン支店の指図による。」ことが記載され、」に、二〇頁五行目の「甲一1~7」を「甲一1~6」にそれぞれ改める。

10  同二〇頁六行目の「本件船荷証券」から同八行目の「とどまり、」までを削る。

11  同末行から同二六頁八行目までを削る。

12  同二六頁九行目の「なお、」を「3 控訴人らは、デマイズ・クローズは国際海上物品運送法一五条一項に該当して無効である旨主張する。しかし、」に改める。

13  同二七頁二行目の「有するものである。」の次に「したがって、控訴人らの右主張も失当である。」を加える。

14  同二七頁二行目の次に改行の上次のとおり加える。

「二 争点2(運送人の堪航(堪貨)能力担保義務)について

控訴人らは、本船が不堪航(堪貨)であった旨主張するが、これを肯認するに足りる事実はない。かえって、以下に挙示する争いのない事実と証拠により認められる事実によれば、本船は堪航性を有していたというべきである。したがって、控訴人らの右主張は理由がない。

1  最初に、船体発汗の現象は、湿気の多い熱帯又は亜熱帯の地で農産物等の吸湿性の貨物を積載して、寒冷の地方に航海する場合に起こり易いから、本件航海においては、船体発汗による貨物の濡損事故が発生する可能性はあった。

証拠

甲一三、一七、七五、八二、九二

原審における岡本吉生証人(362~366項)

2  そして、本船の通風換気装置が排気専用のマッシュルーム型の自然通風装置であること、いいかえれば、本船が機械通風装置を装備していなかったことは、前記のとおりである。

3  しかしながら、本船の換気システムは、雑貨撒積船の通常のものであり、現在においても、このような型式の船で多くの穀物や植物性ペレット類が撒積輸送されている。

証拠

乙一五、一七

原審における和島金土鑑定人(73~75項)

4  右事実によれば、本船が機械通風装置を装備していなかったことをもって不堪航(貨)であったということはできず、運送人は、発航の当時、堪航(堪貨)能力担保義務を尽くしたものというべきである。

5  次に、本船が船側外板沿いに荷敷(ダンネージ)を設置していなかったことは前記のとおりであるが、運送人に荷敷の設置義務がなかったことは後記のとおりである上、熱帯から温帯地向けに輸出される穀物類(植物性ペレット類を含む)の輸送は、撒積、すなわち、船の外板内側壁に特別の断熱材等の処置なしで(貨物を外板内側壁に直接接触させる方法で)行われているから、荷敷を設置しなかったことにより不堪航(貨)であったということはできず、運送人は、発航の当時、堪航(堪貨)能力担保義務を尽くしたものである。

証拠

乙一七

原審における和島金土鑑定人(35~38項)

6  なお、控訴人は、貨物の積付方法をも堪航(堪貨)能力の問題と主張するが、これは、国際海上物品運送法三条、四条の問題であると解されるから、ここでは取り上げない。

7  最後に、控訴人は、本船の一等航海士が船積期間中に本件貨物の検温をすべきであったのに、これをしなかったから、運送人は、同法五条一項二号の事項について過失があったと主張するけれども、法律上及び本件穀物航海傭船契約上本船の船員に船積時の検温義務があったとは解されない(これは荷送人の義務である)から、控訴人の右主張は主張自体失当である。」

15 同二七頁三行目冒頭の「二 争点2」とあるのを「三 争点3」に改める。

16 同三一頁一行目冒頭の「乙二」とあるのを「乙一」に改める。

17 同三四頁二行目の「注意義務があった」の次に「と」を加える。

18 同三八頁八行目の「あり続けたもので」の次に「あ」を加える。

19 同四一頁六行目冒頭の「三 争点3」とあるのを「四 争点4」に改める。

20 同四四頁七行目冒頭の「四 争点4」とあるのを「五 争点5」に改める。

二  よって、これと同旨の原判決は正当であり、本件各控訴はいずれも理由がないから棄却し、控訴費用の負担について民訴法九五条、九三条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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